研究活動

研究活動

研究の紹介1 担当 辛 正廣

術者の“4次元的思考”をサポートする人工知能搭載脳神経外科手術支援システムの開発

学術的背景:脳神経外科の手術では、脳深部に存在する血管病変(脳動脈瘤)や腫瘍性病変(頭蓋底腫瘍)に対し、周辺の重要解剖である脳・神経組織、血管構造を損傷しないよう、細心の注意を払って病変に到達し、血管操作や腫瘍切除などの処置を行うことが必須条件となる。重要解剖に対する悪影響を最小限にすべく、脳神経組織の間隙(半球間裂や脳溝など)や解剖学的空洞を利用して術野を確保し、安全に手術操作を行うためには、顕微鏡や内視鏡などの光学機器が発達した現代でも、限られた範囲の術野から得られる視覚情報から、周辺全体の解剖構造と術野のオリエンテーションを理解して手術を行うことが要求される。

画像1こうした手術中の術野認識能力に基づいた臨床的判断を行うには、3次元的に術野全体を捉えて、視認できる部分を超えた解剖情報を俯瞰的に認識し、次の手順による結果を予測し、瞬時に決定する「4次元的思考」が必要であり、治療成績を大きく左右する。現状では、こうした術中の判断に加え、術前に最適な到達ルートを決定し、安全に手術を遂行するのに、多くの経験を有する医師の“臨床的勘”に依存するところが多く、誰もが納得するような客観的かつ科学的な根拠に基づいた判断の入り込む余地は限られている。また、治療方針については、施設間や、同一施設でも手術を担当する医師の間で、大きな隔たりがある。さらに、こうした“臨床的勘”を身に着けるには、長年にわたる修練を必要とし、脳神経外科手術の修得を難しいものとする原因となっている。
一方、教育においても、医学生や研修医にとって、教科書的な解剖の理解を基に、脳神経外科手術の限られた範囲の術野解剖を把握することが困難な場合が多く、術前に行った2Dの検査画像や簡易的な3D画像から術野の状態を予期できるようになることが、術者教育の中で最も時間のかかるステップとなっている。

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本研究は、術前画像データを入力して、患者頭部の3D virtual reality simulation model(3D VRS model)を作成する深層学習装置の機能をさらに向上させ、得られた3D VRS modelを手術中の術野映像にreal timeに投影・搭載できる新たな画像認識技術を開発することにある。これにより、術者の経験に関わらず、術野の状態を包括的に把握することが可能となり、現行の脳神経外科手術が抱える、根本的な問題を解決する術前検討・術中支援システムの開発を目指すものである。さらには学生教育、研修医教育から高難度手術の修得を目指す専門医の術者教育、さらに、術者のreal time遠隔指導にも応用可能である。

研究の紹介2 担当 庄島 正明

血流ストレスの解析「ストレスは必要?不要?」

画像4脳動脈瘤は、血流が衝突するところに好発することは50年以上前から指摘されてきました。また、血管壁に蓄積したプラークの破綻は、血流ストレスが強い所で起こるのではないか、という推察も古くから有りました。ただ、「流れ」というのは時々刻々と変化するために、解析しづらく、血液の流れが血管の病気に対してどのような影響を及ぼしているかに関しては、詳細には調べられてきませんでした。2000年を過ぎた頃から、コンピューターシミュレーションを導入して、血流ストレスを解析できる様になり始めました。研究の結果、血流ストレスが強すぎても弱すぎても血管にとっては具合が良くないということがわかってきました。また、脳動脈瘤は、ストレスが強い所というよりも、ストレスの強い所と弱いところの境目で進行しやすいこともわかりました。まだわかっていないことが多く、発見を待っている医学的知見が数多く眠っています。

図:経過観察中に増大した脳動脈瘤を血流解析したところ、ストレスが高い(赤い)ところというよりもストレスが低い(青い)ところで増大をしていました。複数例の検討をおこなうことで、ストレスが高いところに隣接したストレスの低いところ(境界部分)で増大が起こることがわかりました。

研究の紹介3 担当 宇野 健志

術者の視線追跡 「あいつは目の付け所が違う」

外科の修練では、本から知識を学び、実地訓練で技能を学んでいきます。とくに、技能の習得に関しては、文字や言葉だけでは伝えきれないミステリアスなところがあります。外科手技の習得において、「手先の器用さ」はそれほど重要ではないことは多くの達人が述べており、患者さんや疾患、そして現場で刻々と変化する状況を適切に判断できる力こそが習得すべきものだと考えています。そのような判断力を習得するのを容易にしたり、自分自身の判断力の段階を客観的に判断する指標として、私達は「視線追跡(アイトラッキング)」に注目しています。メガネをかけるだけなので、手術中の視線記録は容易に行えます。

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経験レベルの異なる4人の術者の視線を解析したところ、
(1)初学者と経験者では見ている画面が異なる
(2)1点を注視する時間が経験が少ないほうが長い
ことがわかりました。初学者では、視覚情報を処理するのに時間がかかるため、1点を注視する時間が長くなるのではないかと思われます。

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研究の紹介4 担当 後藤 芳明

スモールデータ駆動型機械学習による脳内出血の増大予測と患者予後の予測支援システムの開発

画像8【概要】本研究では、希少価値を有する数十から数百例といった少数の学習データ(=スモールデータ)を用いた深層学習技術を開発・検証することで、これまで不確実であった脳内出血の血腫増大と患者予後についての予測支援システムの開発と臨床評価を行う。脳内出血は本邦における死亡原因の第4位を占める脳卒中の一種であり、コモンディジーズであり治療方法などは確立されている一方で、出血の増大予測及び予後予測については高精度とは程遠い現状がある。医療画像技術が進歩した現在でも、血腫増大についていくつかのリスクファクターは報告されているものの、実臨床においては医師の経験に基づいた“臨床的判断”に依存している部分が多い。患者の予後予測についても、脳内出血の局在と血腫量を元に臨床的に判断するも、常時高い正確性を維持することは期待できない。
この臨床的判断は個々人の経験によるものであり、データの蓄積が非効率的かつ主観的である。本研究は、この問題を機械学習技術によって解決すべく、脳内出血の血腫拡大予測及び患者の予後予測システムの開発を目指したものである。機械学習技術の様々な解析法を用いて患者データの網羅的解析から導き出された高精度の出血増大についての予測により、血腫拡大による患者の状態悪化を未然に防ぎ、患者の予後改善や医療費の削減にも大きく貢献するとともに、予め患者の予後予測できることで、手術加療を含めた治療方針の指針となり得るものと考えている。

研究の紹介5 担当 樋口 芙未

神経膠腫に対する標準治療薬TMZの効果増強・抵抗性の克服をめざした新治療の開発

患者由来神経膠腫細胞株を使用して新治療の開発をめざすTranslational Research
~Bench to Bedside~(研究室から臨床へ)

【概要】神経膠腫はいまだ完治の難しい脳実質内悪性腫瘍です。、脳という多彩な機能をもつ臓器であるがゆえ、また腫瘍の浸潤性の高さから、外科的摘出のみでの治療は不可能であり、放射線・化学療法を使用した集学的治療が必要な疾患です。本研究では、神経膠腫細胞株を使用し、標準治療薬TMZの効果の増強、抵抗性の克服などを目標とした基礎研究を行っています。【学術的背景】再発悪性神経膠腫の20-30%にmismatch repair (MMR)遺伝子の変異が認められ、この変異がTemozolomide(TMZ)に対する抵抗性の要因となっています。したがって、MMR欠損によるTMZに対する抵抗性の克服は、悪性神経膠腫治療において重要な課題です。

神経膠腫細胞株に対して、TMZに加えて、PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)というDNA損傷反応に必須の分子であり、BER(塩基除去修復)、HR(相同組み換え)、NHEJ(非相同末端結合)など多くのDNA修復機構に関与しているたんぱく質の阻害剤(PARP阻害剤)を併用したところ、TMZ抵抗性の細胞株において、TMZへの感受性が回復しました。 再発腫瘍には現在、延命効果のある標準治療はなく、あらたな治療戦略として有効な可能性があります。

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研究業績

英文論文発表(査読付きinternational journal)

Impact factor5以上の論文が、なんと 5/15! 当科医師がfirst authorの論文数:9/15

  1. Goto Y, Kawaguchi A, Inoue Y, Nakamura Y, Oyama Y, Tomioka A, Higuchi F, Uno T, Shojima M, Kin T, Shin M. Efficacy of a Novel Augmented Reality Navigation System Using 3D Computer Graphic Modeling in Endoscopic Transsphenoidal
    Surgery for Sellar and Parasellar Tumors. Cancers (Basel). 2023 Apr 4;15(7):2148. doi: 10.3390/cancers15072148. PMID: 37046809 Free PMC article.
  2. Hirano Y, Shojima M, Uno T, Koizumi S, Oyama Y, Indo M, Saito A, Oya S, Saito N, Shin M. Custom shaping of distal access catheter for navigation of microcatheter into inferolateral and 2 meningohypophyseal trunk feeders. J Neurosurgery. 2023 in press
  3. Shin M, Hanakita S, Hasegawa H, Shojima M, Ohara K, Shinya Y, Kawashima M, Kondo K, Saito N. Endoscopic extended transsphenoidal surgery aiming for radical resection of skull base tumors involving cavernous sinus: assessment of resectability and risks of complication. Oper Neurosurg (Hagerstown) 2023 in press
  4. Hasegawa H, Shin M, Shinya Y, Kashiwabara K, Kikuta S, Kondo K, Saito N. Long-term Outcomes of Non-vascularized Multilayer Fascial Closure Technique for Dural Repair in Endoscopic Transnasal Surgery: Efficacy, Durability, and Limitations. World Neurosurg. 2023 Mar 11:S1878-8750(23)00330-3. doi: 10.1016/j.wneu.2023.03.035. Online ahead of print. PMID: 36914030
  5. Oyama Y, Uno T, Asami M, Onuki T, Shin M. Emergency carotid artery stenting for progressive traumatic internal carotid artery occlusion. Trauma Surg Acute Care Open. 2022 Jan 17;7(1):e000873. doi: 10.1136/tsaco-2021-000873. eCollection 2022. PMID: 35141423 Free PMC article. No abstract available.
  6. Uno T, Shojima M, Oyama Y, Yamane F, Shin M. Anatomical Factors That Impede Using the Radial Artery Approach for Carotid Artery Revascularization. World Neurosurg. 2022 Apr;160:e398-e403. doi: 10.1016/j.wneu.2022.01.029. Epub 2022 Jan 13. PMID: 35032714
  7. Kawaguchi A, Shin M, Hasegawa H, Shinya Y, Shojima M, Kondo K. Endoscopic Extended Transclival Approach for Lower Clival Meningioma. World Neurosurg. 2022 Aug;164:117. doi: 10.1016/j.wneu.2022.04.115. Epub 2022 May 2. PMID: 35513279
  8. Nakamura Y, Umekawa M, Shinya Y, Hasegawa H, Shin M, Katano A, Shinozaki-Ushiku A, Kondo K, Saito N. Stereotactic radiosurgery for skull base adenoid cystic carcinoma: A report of two cases. Surg Neurol Int. 2022 Nov 4;13:509. doi: 10.25259/SNI_675_2022. eCollection 2022. PMID: 36447865 Free PMC article.
  9. Takeshi Uno , Masaaki Shojima, Yuta Oyama. Retrograde endovascular revascularization for chronic total occlusion of the internal carotid artery . Acta Neurochir (Wien). 2022 Apr;164(4):1015-1019. doi: 10.1007/s00701-021-04875-3.
  10. Kawanishi A, Umekawa M, Miyawaki S, Fujitani S, Ishizawa T, Ushiku T, Hongo H, Teranishi Y, Shojima M, Shin M, Hasegawa K, Saito N. Long-term progression-free survival achieved in the skull base metastasis of gastrointestinal stromal tumor with introduction of tyrosine kinase inhibitor: illustrative case. J Neurosurg Case Lessons. 2022 Apr 18;3(16):CASE2257. doi: 10.3171/CASE2257. Print 2022 Apr 18. PMID: 36303489 Free PMC article.
  11. Shinya Y, Shin M, Hasegawa H, Koizumi S, Kin T, Kondo K, Saito N. Endoscopic endonasal transpetroclival approach for recurrent bilateral petroclival meningioma. Neurosurg Focus Video. 2022 Apr 1;6(2):V7. doi: 10.3171/2022.1.FOCVID21229. eCollection 2022 Apr. PMID: 36284997 Free PMC article.
  12. Hasegawa H, Shin M, Niwa R, Koizumi S, Yoshimoto S, Shono N, Shinya Y, Takami H, Tanaka S, Umekawa M, Amemiya S, Kin T, Saito N. Revisitation of imaging features of skull base chondrosarcoma in comparison to chordoma. J Neurooncol. 2022 Sep;159(3):581-590. doi: 10.1007/s11060-022-04097-2. Epub 2022 Jul 26. PMID: 35882753
  13. Hirano Y, Shinya Y, Aono T, Hasegawa H, Kawashima M, Shin M, Takami H, Takayanagi S, Umekawa M, Ikemura M, Ushiku T, Taoka K, Tanaka S, Saito N. The Role of Stereotactic Frame-Based Biopsy for Brainstem Tumors in the Era of Molecular-Based Diagnosis and Treatment Decisions. Curr Oncol. 2022 Jun 28;29(7):4558-4565. doi: 10.3390/curroncol29070360. PMID: 35877220 Free PMC article.
  14. Yamazawa E, Takahashi S, Shin M, Tanaka S, Takahashi W, Nakamoto T, Suzuki Y, Takami H, Saito N. MRI-Based Radiomics Differentiates Skull Base Chordoma and Chondrosarcoma: A Preliminary Study. Cancers (Basel). 2022 Jul 3;14(13):3264. doi: 10.3390/cancers14133264. PMID: 35805036 Free PMC article.
  15. Teranishi Y, Okano A, Miyawaki S, Ohara K, Ishigami D, Hongo H, Dofuku S, Takami H, Mitsui J, Ikemura M, Komura D, Katoh H, Ushiku T, Ishikawa S, Shin M, Nakatomi H, Saito N. Clinical significance of NF2 alteration in grade I meningiomas revisited; prognostic impact integrated with extent of resection, tumour location, and Ki-67 index. Acta Neuropathol Commun. 2022 May 15;10(1):76. doi: 10.1186/s40478-022-01377-w. PMID: 35570314 Free PMC article.

この他に、和文の論文も多数あります。