脳の病気について
神経膠腫
神経膠腫(グリオーマ)とは、脳内の神経細胞の周囲の存在する神経膠細胞(グリア細胞)から発生する脳腫瘍です。(細かく分類すると、40種類にも及びます。)神経膠腫は細かくたくさんの種類に分類され、脳内のあらゆる部分に発生します。そのため腫瘍の種類、場所、大きさ、症状はさまざまであり、患者さん一人一人に対して、個別に検討した治療戦略を立てることが大切です。
神経膠腫は基本的に、摘出術に加えて、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療を必要とする脳腫瘍です。手術の戦略から、正確な診断、適切な化学療法・放射線治療の選択など総合的なマネジメントが必要です。
帝京大学脳神経外科では、「腫瘍の治療」と「脳機能の温存」を両立させた治療を実現するため、最新の診断技術、手術技術を駆使して、神経膠腫の治療にあたっています。
神経膠腫の術前検査
CTやMRIの画像検査が必須です。神経膠腫の種類の推測、正確な位置、大きさ、拡がりを確認します。造影剤を使用した検査を行うこともあります。
MRI 検査
最終的な診断は、手術で採取した脳腫瘍から病理検査にて確定しますが、他の脳腫瘍との区別や、神経膠腫の悪性度を判断するため、腫瘍のブドウ糖(FDG)やアミノ酸(メチオニン)の代謝をみるPET検査を行うことがあります。
また安全で有効な手術を行うために、脳の機能局在と脳腫瘍の位置関係を評価するため、次のような特殊な検査が有用な場合があります。
Functional MRI(機能MRI)
言語課題や運動課題を行いながら撮影することで、言語野や運動野同定したり病変部との関係を明らかにします。
トラクトグラフィー
運動や言語をつかさどる神経線維(連絡)を描出し、腫瘍との位置関係を評価します。
神経膠腫の手術
神経膠腫では手術に大きくわけて2つの目的があります。
1つ目は、腫瘍の摘出です。腫瘍の種類にもよりますが、手術で腫瘍細胞をできるだけ摘出することが、よい治療成績につながることがわかっています。詳細な画像情報から、重要な神経組織、神経線維を守りながら、最大限の腫瘍組織を摘出します。
2つ目は、正確な診断です。神経膠腫の最新の分類は40の種類に細かく分類されています。組織を採取し、病理診断、遺伝子診断を行うことが治療方針を決定するために、非常に大切です。まず診断だけを行う生検術を施行し、正確な診断を得たあとに、摘出術を施行する場合もあります。摘出することで、意識障害、運動麻痺、言語障害など大きな症状の出現や悪化が予想される部位では、診断のために生検術を行い、次の治療にのぞみます。
帝京大学では、全検査画像を統合した3D画像技術を駆使し、綿密な手術戦略のもと手術を行います。
実際の手術中には、手術の目的、腫瘍の部位に応じて、ナビゲーションシステム、電気神経モニタリング、5-ALAを使用した術中蛍光診断などの技術を取り入れています。これらの技術を用いて、正確に計画した手術を実行することで、「脳機能の温存」しながら、「腫瘍を最大限に摘出する」手術を行っています。
ナビゲーションシステム
術前に撮影したCTやMRI画像を、ナビゲーションシステムに取り込むことで、手術中の操作部位と画像をリンクさせることができます。操作している部分が、腫瘍のどの部分なのか、腫瘍はどこまであるのか?、脳の重要構造物までの距離はどのくらいなのか?などをリアルタイムに知ることができ、的確な腫瘍摘出を行うことができます。
病理診断と遺伝子診断
手術で採取した検体をもとに、病理診断がなされます。また神経膠腫では、近年遺伝子解析の研究がすすみ、診断や治療の選択に重要な役割を果たすようになっています。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子変異や、第1染色体単腕と第19染色体長腕の欠失(1p19q 共欠失)をみとめる腫瘍では、予後や化学放射線治療への反応が良いことがわかっています。一方でIDH遺伝子変異を認める腫瘍のなかでも、CDKN2A/2B遺伝子ホモ接合体欠失を伴う腫瘍では、予後が悪いことがわかってきました。当院では、神経膠腫の診断や治療反応性に関係するIDH, H3, TERTなどの遺伝子変異,1p/19q共欠失、CDKN2A/2B欠失などを調べて、病理組織と組み合わせた統合的な診断を行い、手術後の治療の選択に役立てています。
IDH1 TERT遺伝子変異の検出
神経膠腫の手術後化学療法・放射線療法
悪性神経膠腫に対する標準治療
手術後、6週間(週5回×6=30回 60Gy)の放射線治療と、テモダール(一般名:テモゾロミド)の内服化学療法を組み合わせて行います。週に一回程度、血液検査を行い、副作用の程度を評価します。手術後の状態が良好であれば、外来通院にて行うことも可能です。
放射線治療終了後はテモダールの内服維持治療(5日間内服/28日)を6-12回追加します。こちらも月一回程度の外来通院で行うことができます。
- アバスチン(一般名:ベバシズマブ)抗VEGFヒト化モノクローナル抗体
- 血管新生を促すために、腫瘍細胞が、産生するVEGFというたんぱく質に結合し、働きを阻害する薬剤です。血管新生を抑えることで、腫瘍の増殖スピードを抑えます。化学療法薬の中でも、分子標的薬に分類される薬剤で、従来の化学療法薬と比較して副作用が少ないことが特徴です。一方で、血管に作用する薬剤のため、高血圧、出血、血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症など)、創傷治癒遅延などの副作用があります。2週間に一回、1時間程度の点滴治療を行います。外来化学療法で行うことが可能です。
- Novo-TTF
このほかに、帝京大学医学部附属病院は、2018年よりがんゲノム医療提携病院に指定されており、がんゲノム中核拠点病院(東京大学)と連携し、がんゲノム医療を実施しています。がんゲノム医療では、採取した腫瘍の遺伝子を多数調べ、遺伝子の変化に応じた治療薬を探します。再発した難しい患者さんに対してもがんゲノムプロファイリング検査を施行し、あらたな治療方法の可能性を見出していきます。