脳の病気について
頚動脈狭窄症
脳梗塞は、前兆として、突然、片目の視野が暗くなり、数分から十数分で改善する“一過性黒内障”といわれる症状や、片側の手足に力が入らなくなる一過性脳虚血発作を呈することが知られています。こうした、症状のある患者さんでは、脳へ血流を送る頚動脈(首を触れると拍動を感じる部分にある太い血管です)の内腔が、動脈硬化などで狭くなってしまっている方が多く見られます。こうした状態を、頚動脈狭窄症といいます。
頚動脈狭窄症は、高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病の基礎疾患のある患者さんで多くみられ、喫煙、大量飲酒などの生活習慣が原因となることも知られています。長い間に、動脈の内側にコレステロールや血の塊など、“プラーク”と呼ばれる物質が、徐々に蓄積していきます。ある程度、プラークが厚くなると、頚動脈血管を閉塞させたり、プラーク自体がちぎれて、その先の脳血管に流れていき、血管を閉塞させて脳梗塞を起こしたりします。こうした、頚動脈狭窄症が原因となる血管の問題では、脳の広い範囲の脳梗塞を引き起こすことが高く、極めて深刻な状態となってしまう可能性が高いです。
この疾患の治療としては、狭窄が軽度であれば血をサラサラにする薬やコレステロールを下げる薬などの内科的治療で、血管の狭窄が進行しない様に経過をみることができます。しかしながら、ある程度、狭窄が進行してしまった場合や、プラークが安定せず、剥がれ落ちそうな状態の場合では、近々、脳梗塞となる危険が高く、外科的な治療をお勧めしています。頚動脈狭窄所の外科治療には、大きく、手術によりこのプラークを切除する方法(内膜剥離術といいます)と、血管の中から内径を拡張する血管内治療があります。それぞれの患者さんの病態によって、内膜剥離術と血管内治療について、どちらが適しているか、検討する必要があります。
頚動脈狭窄症に対する内膜剥離術
頚動脈狭窄症に対する内膜剥離術では、血管の内膜の一部を狭窄部分のプラークと一緒に切り取るため、手術後に狭窄部分はきれいに広がります。脳神経外科の手術としては、手術手技が既に確立しており、安全性が高いことが手術の利点です。しかしながら、全身麻酔下での手術であったり、手術に際し、一時的ではありますが、片側の脳血流が遮断されたりすることもあり、対側の頚動脈に著しい狭窄のある方や、全身麻酔に危険が伴うような合併症のある方、高齢者などでは注意が必要となります。
頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術(血管内治療)
血管内治療では、手首や足の付け根から動脈内にカテーテルといわれる細い管を挿入し、血管の狭窄部分まで到達します。先端に特殊な風船のついたバルーンカテーテルで、狭窄部を広げたあとで、再度、狭窄しないよう、筒状の金属の網(ステントといいます)をそこに留置します。こうした、血管内治療の技術は、ここ10年程で著しく進化しており、現在は、安全性と効果の確実性において、手術と同等となっています。全身麻酔や頚部の切開を必要としないため、非常に患者さんの体の負担は少なく抑えられます。しかし、血管内治療では、治療後にステントに血栓ができないようにするために、血液が固まりにくくなるような薬(抗血小板薬)をしばらく内服する必要があります。また、治療の際に、血管を描出するために造影剤を多く使用します。このため、体に出血性の病気があり、抗血小板薬を内服しにくい方や、腎臓の機能が悪い方、造影剤のアレルギーのある方では、適応しにくいです。
帝京大学では、頚動脈狭窄症に対し、内膜剥離術および血管内治療に習熟した、日本脳卒中の外科学会技術認定医と日本脳神経血管内治療学会専門医医師が多数、在籍しております。こうした専門の医師を中心に、頚動脈狭窄症の患者さんに対しても、それぞれの患者さんに合った、より良い治療法を提案させていただきます。ご希望などありましたら、お気軽にご相談ください。(担当:宇野、後藤、大山)