脳の病気について
頭部外傷
頭部外傷(脳損傷)の重症度は受傷後の意識障害の程度によって表され、意識障害の程度はGlasgow Coma ScaleまたはJapan Coma Scaleを基に軽度・中等度・重度の3段階に分けられます。すなわち受傷後の意識レベルが軽度・中等度であった場合は軽症・中等症頭部外傷、重度であった場合は重症頭部外傷と定義されています。
頭部外傷では、重症度によって身体に及ぼす影響が大きく異なり、重症頭部外傷においては、脳実質が広範に障害されることにより不可逆性の意識障害、凝固線溶系(出血を止めたり血の塊を溶かしたりする身体の働き)障害が起こり予後不良となる原因となっています。
また、頭部外傷を病態から分類すると、脳実質の損傷では、脳震盪・脳挫傷・びまん性軸索損傷があり、頭蓋内の出血では、急性硬膜外血腫・急性硬膜下血腫・外傷性脳内血腫・外傷性くも膜下出血に分類されます。
脳震盪
一過性の脳機能障害を伴う外傷と定義されており、受傷直後は一過性の意識消失や健忘、頭痛、嘔吐、局所神経症状(手足のしびれなど)、けいれんなどの症状が起こりますが、診察時には症状が改善していることが多く、頭部CT検査においても異常が見つからないことがほとんどです。症状が継続している場合は、脳震盪後症候群と呼ばれ外傷後の回復過程を表しており、受傷後3カ月以内にほぼ消失しますが、15%~25%の患者さんでは受傷後1年でも残存していると報告されています。また、約半数の患者さんでは認知機能障害が1年以上持続するとの報告もあります。
脳挫傷・外傷性脳内血腫(局所脳損傷)
受傷時の直接損傷および対側損傷により局所の脳実質損傷を呈した状態であり、損傷部位からの出血により血腫を形成する場合があります。
血腫や挫傷による脳浮腫により正常脳が圧迫されたり、症状が進行性に悪化したり、頭蓋内圧のコントロールが困難である場合には手術の適応となります。
びまん性軸索損傷・びまん性脳腫脹
受傷時の回転加速度による剪断力損傷により脳の広い範囲に損傷が及んだ状態です。
受傷後より意識障害が続きますが、びまん性軸索損傷は、受傷直後の頭部CTでは原因となる病変がみられない頭部外傷です。治療については、手術の適応はなく、集中治療による全身管理が主体となります。びまん性脳腫脹については脳の圧迫が著しい場合は、手術の適応となります。
急性硬膜外血腫
主に脳を包んでいる膜(硬膜)の血管の損傷により硬膜の外に出血し、頭蓋骨と硬膜の間に血腫を形成した状態です。
脳の圧迫を来すような大量の出血である場合や神経障害がどんどん悪化する場合は緊急手術の適応となります。後頭蓋窩(小脳近傍)の血腫については脳幹(生命の維持に重要な部位)が圧迫されやすく、より緊急性が高くなります。
急性硬膜下血腫
主に脳表の血管の損傷によって硬膜下とくも膜との間に血腫を形成した状態です。
脳の圧迫を来すような大量の出血がある場合や、神経症状が悪化する場合は緊急手術の適応となります。頭部の強い衝撃による受傷の場合が多く、他の頭蓋内血腫との合併や損傷部位の二次的な脳浮腫・脳腫脹・出血により頭蓋内圧の亢進や脳循環の障害をきたし悪循環を形成するため治療が困難と言われています。予後の改善には、手術のみならず集中治療による全身管理が重要となります。
braininjury-explanation.com
外傷性くも膜下出血
硬膜の内側にあるくも膜の下に出血が広がった状態です。出血した部位を特定することは難しく、通常手術の適応はありません。重症の場合は集中治療による全身管理が中心となります。
帝京大学では、重症頭部外傷については高度救命救急センターと協力して、初期治療から、患者さんの回復と、早期の退院、社会復帰をめざしたリハビリテーションまで、一貫した治療を行っています。頭部外傷に対しては、救急科専門医(朝見、大山)を有する脳神経外科医が中心となり、頭蓋内圧を持続的に測定し、頭蓋内病変の悪化の早期把握や持続脳波モニタリングによる意識障害の評価など、あらゆる事態を想定し、適切に対応を行っていきます。治療により状態が改善し退院した後も、専門のスタッフが外傷外来で経過を確認していきます。