教室紹介

診療内容・特徴

  • 高度救命救急センターと連携した脳神経疾患に対する救命救急診療の実践
  • 脳血管障害、脳腫瘍、機能的疾患まで幅広い脳神経の病気に対応
  • 顕微鏡下手術・血管内治療の両方に習熟した“ハイブリッド脳神経外科医”による最先端脳卒中手術
  • 脳神経外科、脳神経内科、救命科が連携した、脳卒中センター
  • 神経内視鏡を駆使した、下垂体・頭蓋底病変に対する低侵襲頭蓋底手術
  • 手術用ナビゲーションと術中神経モニタリングを駆使した脳腫瘍手術
  • 高齢者から小児までさまざまな年齢の患者さんに対応できる診療体制

帝京大学の脳神経外科は、2021年5月1日より主任教授に辛 正廣(しん まさひろ)が就任し、新たな診療体制のもとでスタートしています。脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、先天奇形など、様々な器質的疾患から、水頭症や、顔面けいれん、三叉神経痛、脳卒中後の痙縮など機能的疾患まで、幅広い脳神経疾患を対象に、それぞれの疾患の治療に習熟した専門の医師が治療を行っています。
当科では、患者さんの体の負担を抑え、最大限の治療効果を発揮する“低侵襲治療”の実現をコンセプトに掲げ、治療を受けていただく患者さんの早期回復と一日でも早い社会復帰を目指して、日夜、診療にあたっています。

脳血管障害、脳血管に関する病気

経験豊富な専門医によるハイブリッド手術室での脳動脈瘤手術(未破裂例、くも膜下出血発症例)

高度救命救急センターを有する帝京大学では、2017年に脳卒中センターを開設し、24時間体制で脳卒中診療を行っています。当科における脳卒中診療の特徴は、従来から行われている顕微鏡下の開頭手術に加え、血管の問題を体の中からカテーテルで修復する、脳血管内治療を積極的に推進しているところにあります。脳血管内治療は、血管の中から、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤を特殊な金属製のコイルを用いて、充填することで、出血を予防・阻止することができます。日本脳神経血管内治療の専門医を含め、血管内治療に習熟した医師(宇野講師、後藤助教、大山助教)と日本脳卒中の外科学会技術認定医(宇野講師、後藤助教)が在籍しております。経験豊富な脳卒中治療の専門医が、顕微鏡下での開頭手術と脳血管内治療の適応について、十分検討を行い、患者さん一人一人に最適な治療を、日夜、提供しています。

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顕微鏡下での開頭手術
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手術室と血管撮影室の機能を兼ね備えた“ハイブリッド手術室”での脳血管内治療

もやもや病をはじめとした、脳虚血性疾患に対する脳血流再建術

もやもや病は、日本をはじめ、東アジアで多発する進行性の脳血管閉塞症です。脳の血管の中でも、最も重要な内頚動脈が閉塞を来す病気で、脳血流の低下により、小児や若年成人で手足の麻痺やてんかん症状、強い頭痛、高次機能障害を認めます。また、これとは別に、高齢者における脳動脈硬化症でも、脳の血管が徐々に狭窄を来し、脳血流が低下することで脳梗塞へと進行していきます。当科では、こうした脳虚血性疾患に対しても、積極的な治療を行っています。顕微鏡下に頭皮血管を脳血管に吻合して脳血流を増加させる直接血行再建術と共に、硬膜の一部や側頭筋を脳表に敷き込み、脳表の動脈との自然吻合を促す間接的血行再建術を、患者さんの病状に応じてお勧めしています。手術中には、電気刺激による運動機能のモニタリングを行い、術中から術後には近赤外線を用いた脳血流の測定を併用することで、安全面に最新の配慮を行いながら術中術後の脳血流の管理を行います。こうして、脳梗塞や脳内出血を未然に防ぐ予防的な外科治療も行っています。

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血行再建術により左脳の血流が増加した症例

脳梗塞に対する血管内治療①:突然の脳動脈閉塞に対する血栓回収療法

脳血管の動脈硬化が進行している方や、不整脈がある方などでは、体の他の部位で発生した血栓(小さな血の塊)が、脳の方へ血流によって流れ込み、重要な脳血管を閉塞させることにより、脳梗塞となってしまうことがあります。脳血管が閉塞してしまうとその部分には脳に血液がいかなくなり、患者さんは、意識障害や、突然の手足の麻痺、言語障害など、様々な症状を認めます。こうした血管の閉塞に対し、閉塞部位にカテーテルを血管の中から誘導して、脳血管を閉塞している血栓を取り除く治療法があります。これが血栓回収療法です。脳血管の閉塞により、脳の血流が低下しても、直ちに脳梗塞となってしまうわけではありません。緊急で脳MRIを行い、脳梗塞に陥っていしまっている範囲が狭く、症状が出てから24時間以内であれば、脳血管を開通させることで、症状の回復は十分に期待できます。当院では、神経内科で行っているtPA静注療法と共に、血栓回収療法を積極的に行っています。

脳梗塞に対する血管内治療②:脳梗塞を未然に防ぐ、内頚動脈狭窄症に対するステント留置術

脳梗塞の原因となる、脳動脈硬化症では、脳血管のみならず、心臓から拍出された血液が、脳血管へと到達する少し手前、頚動脈に狭窄が認められることがしばしばあります。このような、患者さんでは、脳血流の低下を認めたり、また、こうした頚動脈の狭窄部位から血栓が発生したりして、脳梗塞の原因となることがありえます。こうした、脳梗塞の原因となるような血管の狭窄に対し、血管を広げて血流の停滞を改善させるのが、頚動脈ステント留置術です。血管の中から、特殊な金属製の網目状の筒(ステント)を狭窄部位に誘導し、広げていくことで、血管を広げて、再狭窄を予防する、安全かつ有効な治療法です。

三叉神経痛、顔面けいれんに対する顕微鏡下での神経血管減圧術

三叉神経痛は、顔面の一定の部位(トリガーポイントと言われます)への接触や刺激で、突き刺すような激しい痛みが発生する病気です。顔にものが触れた際に、その感覚を脳に伝える役割のある三叉神経が、頭蓋骨の中で脳の血管によって圧迫を受けることが原因の病気です。また、顔面けいれんは、目の周りや口の周りの筋肉が、ぴくぴくとけいれんを起こし、顔面の激しい引き連れを起こす病気です。ひどくなると、外見上の問題ばかりでなく、食事や発声に不自由を感じるようになることもあります。顔面けいれんの原因は、三叉神経痛同様に、顔の筋肉の運動を制御する役割のある、顔面神経が、脳の血管による圧迫を受けることが原因の病気です。
これらの病期では、手術前の検査で、圧迫している血管を同定し、手術用顕微鏡の下で、周辺の神経から丁寧に剥離して、圧迫を解除してあげることで、症状が速やかに改善します。脳血管の操作に熟練した医師のもとで、治療を受けることで、通常、皮膚の切開や開頭範囲も小さく、安全な手術が可能です。

脳腫瘍

開頭せず、鼻腔を経由して脳深部に到達、神経内視鏡下頭蓋底手術

帝京大学では、下垂体・内視鏡センターを開設し、下垂体腺腫や頭蓋底腫瘍に対し、開頭せずに鼻腔を経由して腫瘍の切除を行う、内視鏡下経鼻頭蓋底手術を積極的に行っています。この手術法では、脳に圧迫を加えることなく、深部に存在する病変に直接、脳の底側から到達することが可能であるため、開頭手術と比べ、患者さんの体の負担が少なく抑えられます。現在まで、下垂体腫瘍に対する手術に加え、頭蓋底に発生し脳神経を巻き込んで発育する、髄膜腫や頭蓋咽頭腫に対しても、この手術法を応用し、良好な治療成績を達成しています。さらに、頭蓋底脊索腫や軟骨肉腫など、一般に安全な切除が難しいとされる疾患に対しても、内視鏡手術により、徹底切除と症状の改善の両方を達成しています。

治療技術の目まぐるしい進歩と共に、下垂体腫瘍や頭蓋底腫瘍の治療法についても、手術のみならず、ガンマナイフによる放射線治療や、分子標的薬などの治療など、多岐にわたる治療方法を選択できる時代になっています。帝京大学では、こうした幅広い視野に立って、様々な治療法を組み合わせ、患者さんの体の負担を最小限にし、最大限の効果を期待できる治療戦略をお勧めしています。
当院の内視鏡下経鼻手術は、国内でも有数の手術経験のある、日本神経内視鏡学会技術認定医(辛教授、後藤助教)が手術を担当しています。

帝京大学医学部附属病院 下垂体・内視鏡センター

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鼻腔を経由して脳深部の病変に到達する内視鏡下経鼻頭蓋底手術

脳内出血や脳腫瘍に対し、小さな開頭で行う内視鏡下低侵襲手術

鼻腔を経由する手術以外にも、内視鏡を使用することで、脳内出血や脳深部の脳腫瘍(脳室内腫瘍)の手術が、小さな開頭で行うことが可能となります。具体的には、頭蓋骨を前頭部で径3㎝程度、楕円形に開頭し、前頭葉を経由して、脳内に進入し、病変部へとアプローチします。頭蓋骨の外から脳内を観察する従来の手術では、脳の深部を観察しようとしても、非常に限られた視野しか得られませんでした。しかしながら、内視鏡を利用して、脳の中に入り、病変を観察することで広い視野のもとで、安全な手術が可能となるのです。
脳内出血では、病変が比較的脳の中心に存在していれば、出血の程度や血腫の大きさに関わらず、十分な圧迫の除去と止血が達成できます。また、脳腫瘍では、脳室内に発生する腫瘍で、特に治療がしやすいように思います。また、術後についても、低侵襲な経鼻的内視鏡手術より、さらに速やかな回復が期待でき、高齢者にも優しい手術です。

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小さな開頭で内視鏡下に脳内出血を除去する手術

脳腫瘍に対する手術用ナビゲーションや術中神経機能モニタリングを用いた摘出術

良性脳腫瘍、頭蓋底腫瘍、悪性脳腫瘍(神経膠腫・グリオーマ、悪性リンパ腫など)について、手術用ナビゲーションや術中神経機能モニタリングを用いて、安全な摘出術を行っています。髄膜腫、聴神経腫瘍などの 開頭摘出術も積極的に行い、脳神経の機能を温存しながら腫瘍の摘出を行っています。 悪性脳腫瘍については、手術用ナビゲーションや術中神経機能モニタリングを用いて神経機能を温存しつつ最大限の摘出術を行ったのち、放射線・化学療法を行っています。5-ALA(アミノレブリン酸)(商品名アラベル)を用いて蛍光下に腫瘍を可視化し、 安全かつ有効な腫瘍摘出術を行っています。また、術野に抗がん剤であるカルムスチンウェハー(商品名ギリアデル)を留置し、残存腫瘍への治療も行っています。悪性脳腫瘍の術後の 化学療法については、国立がんセンター、東京大学、埼玉医科大学と連携して、プロトコールを作成しており、主にテモゾロマイド(商品名テモダール)・ベバシズマブ(商品名アバスチン)を使用しています。

重症頭部外傷

重症頭部外傷に対する、脳神経モニタリングを駆使した脳神経集中治療

重症頭部外傷については高度救命救急センターと協力して、初期治療から、患者さんの回復と、早期の退院、社会復帰をめざしたリハビリテーションまで、一貫した治療を行っています。頭部外傷に対しては、救急科専門医・集中治療専門医(朝見助教、大山助教)を有する脳神経外科医が中心となり、頭蓋内圧を持続的に測定し、頭蓋内病変の悪化の早期把握や持続脳波モニタリングによる意識障害の評価、NIRS(近赤外線スペクトロスコピー)による脳組織酸素飽和度モニタリングなど、あらゆる事態を想定し、適切に対応を行っていきます。急変にも、機を逸することなく適切に対応できる体制が整っています。また、交通外傷などでは、頭部外傷に加えて、全身に多発外傷を併発している場合も多く、これらに対しても、救急科の医師や、他診療科の医師らとも連携し、積極的な治療を推進しています。また、治療により状態が改善し退院した後も、朝見、大山ら専門のスタッフが外傷外来で経過を確認していきます。

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高度救命救急センターEICUにおける脳神経モニタリング

その他の疾患

脊髄・脊椎疾患に対する診療

頚椎症、後縦靭帯骨化症、頚椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、から脊髄腫瘍に至るまで、積極的に治療に取り組んでいます。手術用顕微鏡を用いた低侵襲で患者さんの負担の少ない治療法を提供しています。

小児脳神経外科診療

当院では、小児科の協力のもとで、水頭症や二分脊椎など、小児脳神経外科疾患の治療も、行っています。また、神経内視鏡による、水頭症手術や小児の脳室内腫瘍、頭蓋底腫瘍といった稀な疾患についても、経験を有しており、対応を行っています。