脳の病気について

もやもや病・虚血性脳疾患

もやもや病について

もやもや病は、日本をはじめ、東アジアで多発する進行性の脳血管閉塞症です。脳の血管の中でも、最も重要な内頚動脈が閉塞を来す病気で、脳血流の低下により、小児や若年成人で手足の麻痺やてんかん症状、強い頭痛、高次機能障害を認めます。また、これとは別に、高齢者における脳動脈硬化症でも、脳の血管が徐々に狭窄を来し、脳血流が低下することで脳梗塞へと進行していきます。当科では、こうした脳虚血性疾患に対しても、積極的な治療を行っています。顕微鏡下に頭皮血管を脳血管に吻合して脳血流を増加させる直接血行再建術と共に、硬膜の一部や側頭筋を脳表に敷き込み、脳表の動脈との自然吻合を促す間接的血行再建術を、患者さんの病状に応じてお勧めしています。

動脈硬化などによる脳血管の閉塞について

患者さんの中には、年齢と共に、徐々に手足のしびれ、ろれつが回らない、めまいがする、手足の力が入りにくい、などの症状を認めて病院を受診される方がいます。こうした症状の原因として、動脈硬化などにより血管が狭窄し、脳血流が不足しているような状態になっている場合があります。MRAや脳血流の状態を確認する検査を行うと、もやもや病と同様に、脳の血管がすでに閉塞してしまっている場合があります(もやもや病は生まれつきの病気ですが、こうした方では、年齢と共に徐々に血管の狭窄進行し、閉塞したものです)。こうした、動脈硬化で時間をかけて、血管が閉塞したような状態では、血管自体を再開通させることは困難です。

こういった患者さんに対しても、顕微鏡下に頭皮血管を脳血管に吻合して脳血流を増加させる直接血行再建術は、有効となります。

直接血行再建術(バイパス術)

脳血流が低下している患者さんに対し、脳の血流が滞っているところを避けて、顕微鏡下に頭皮血管を脳血管に吻合して、脳血流の’’バイパス経路’’を作成して、血流を増加させる手術が行われます。手術では、1-1.5mm程度の非常に繊細な血管どうしを縫合する必要があり、こうした血管吻合に習熟した、専門の医師が手術を行います。また、手術中に、電気刺激による運動機能のモニタリングを行い、術中から術後には近赤外線を用いた脳血流の測定を併用することで、安全面に最新の配慮を行いながら術中術後の脳血流の管理を行います。こうして、術後の脳梗塞や脳内出血などの合併症を未然に防ぐ予防措置も行っています。

こうした技術の導入もさることながら、帝京大学では、脳血管の吻合手術に豊富な経験を有する医師が複数在籍しております。細心の注意のもとで手術を行うことで、高い手術成功率を維持しています。もやもや病と診断された方や、脳血管の閉塞を指摘された方、上記の様な気になる症状がある場合は、ぜひとも一度ご相談ください(担当:宇野、後藤、大山)。

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脳血管:白矢印 脳の外側の血管:黒矢印
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顕微鏡下に、太さ0.02mmの糸で血管縫合
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血行再建術により左脳の血流が増加した症例

脳動脈の急性閉塞/慢性閉塞に対する治療

急性血管閉塞に対する治療

脳に栄養を送っている血管(脳動脈)の内、太い動脈が突然に閉塞すると、その先の脳細胞が機能を維持することができなくなり、意識障害や手足の麻痺などの重度の症状を呈します。やがて、時間が経過すると、脳血流の足りない部分の組織が壊死してしまいます。これが、“脳梗塞”といわれる状態です。一旦、脳梗塞となってしまった組織は、再生されることはありません。なので、脳動脈が閉塞し、症状を認めた場合には、早期に閉塞した動脈を開通させ、一刻も早く脳血流を取り戻すことが重要です。

帝京大学では、救急科、脳神経内科、脳神経外科で密な連携体制を敷いて、急性発症の脳血管閉塞の患者さんに対し、脳梗塞が完成してしまう前に血管を再開通させる救急治療を行っております。

rt-PA療法
脳梗塞の超早期(発症から4時間30分以内)には、rt-PA(アルテプラーゼ)を点滴で注射することで血管の再開通をさせることが可能です。こうしたrt-PA療法を当院では、脳神経外科と脳神経内科の協力で、積極的に行っております。
血管内治療による血栓回収療法
大きな血管の閉塞であったり、rt-PA療法での再開通が得られなかったりした場合では、血管内治療による血栓回収療法が適応となります。カテーテルという細い管を血管の中から、脳内の閉塞した血管まで進めて、脳血管を再開通させる方法です。血栓回収療法では、血管の中から直接閉塞した脳動脈に詰まっている血栓などの物質を除去することが可能であるため、再開通を達成できる可能性が高く、当院のデータでは、救急受診された患者さんの8-9割で、治療が成功しています。脳梗塞に伴う後遺症を、最小限に抑えるには、できるだけ早期に治療を開始し、再開通までの時間を短縮することが重要となってきます。

帝京大学では、こうした患者さんが救急車で到着した時点から、治療開始までの時間をできるかぎり短縮できるよう、日々、検討・努力を行っております。

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治療前:右中大脳動脈閉塞
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治療後:完全再開通
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治療後のMRIでは、脳梗塞の範囲は最小限に抑えられている