研究活動

研究活動

帝京大学での研究

帝京大学での研究:先端総合研究機構

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帝京大学は、3つの附属病院と5つのキャンパスに人文・社会系、自然科学系の広範な10学部11研究科を擁する総合大学であり、学内だけでも連携体制を作り上げることができ、他大学や企業の方との連携体制を構築し、協働して課題解決に取り組むこともできます。このような認識のもと、大学では研究交流シンポジウムを開催し、学内におけるキャンパスや学部を越えた連携関係の構築を応援してきました。今では、さまざまな新しい共同研究の芽が出始めているところです。
学内の連携研究は各キャンパスを拠点として自由に展開されていきます。これをさらに加速すべく、さまざまな連携研究実践の場として、また産業界との共同研究やオープンイノベーションの場としての活用のため、板橋地区に新たな研究棟を現在建設しています。さまざまな新しい学問分野への挑戦が行えるよう、研究棟の内部はオープンラボ仕様を基本とした設計となっています。

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我が国の臨床医学分野の論文増加数及び増加率

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研究の紹介1 担当 辛 正廣

術者の“4次元的思考”をサポートする人工知能搭載脳神経外科手術支援システムの開発

学術的背景:脳神経外科の手術では、脳深部に存在する血管病変(脳動脈瘤)や腫瘍性病変(頭蓋底腫瘍)に対し、周辺の重要解剖である脳・神経組織、血管構造を損傷しないよう、細心の注意を払って病変に到達し、血管操作や腫瘍切除などの処置を行うことが必須条件となる。重要解剖に対する悪影響を最小限にすべく、脳神経組織の間隙(半球間裂や脳溝など)や解剖学的空洞を利用して術野を確保し、安全に手術操作を行うためには、顕微鏡や内視鏡などの光学機器が発達した現代でも、限られた範囲の術野から得られる視覚情報から、周辺全体の解剖構造と術野のオリエンテーションを理解して手術を行うことが要求される。

画像1こうした手術中の術野認識能力に基づいた臨床的判断を行うには、3次元的に術野全体を捉えて、視認できる部分を超えた解剖情報を俯瞰的に認識し、次の手順による結果を予測し、瞬時に決定する「4次元的思考」が必要であり、治療成績を大きく左右する。現状では、こうした術中の判断に加え、術前に最適な到達ルートを決定し、安全に手術を遂行するのに、多くの経験を有する医師の“臨床的勘”に依存するところが多く、誰もが納得するような客観的かつ科学的な根拠に基づいた判断の入り込む余地は限られている。また、治療方針については、施設間や、同一施設でも手術を担当する医師の間で、大きな隔たりがある。さらに、こうした“臨床的勘”を身に着けるには、長年にわたる修練を必要とし、脳神経外科手術の修得を難しいものとする原因となっている。
一方、教育においても、医学生や研修医にとって、教科書的な解剖の理解を基に、脳神経外科手術の限られた範囲の術野解剖を把握することが困難な場合が多く、術前に行った2Dの検査画像や簡易的な3D画像から術野の状態を予期できるようになることが、術者教育の中で最も時間のかかるステップとなっている。

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本研究は、術前画像データを入力して、患者頭部の3D virtual reality simulation model(3D VRS model)を作成する深層学習装置の機能をさらに向上させ、得られた3D VRS modelを手術中の術野映像にreal timeに投影・搭載できる新たな画像認識技術を開発することにある。これにより、術者の経験に関わらず、術野の状態を包括的に把握することが可能となり、現行の脳神経外科手術が抱える、根本的な問題を解決する術前検討・術中支援システムの開発を目指すものである。さらには学生教育、研修医教育から高難度手術の修得を目指す専門医の術者教育、さらに、術者のreal time遠隔指導にも応用可能である。

研究の紹介2 担当 庄島 正明

血流ストレスの解析「ストレスは必要?不要?」

脳動脈瘤は、血流が衝突するところに好発することは50年以上前から指摘されてきました。また、血管壁に蓄積したプラークの破綻は、血流ストレスが強い所で起こるのではないか、という推察も古くから有りました。ただ、「流れ」というのは時々刻々と変化するために、解析しづらく、血液の流れが血管の病気に対してどのような影響を及ぼしているかに関しては、詳細には調べられてきませんでした。2000年を過ぎた頃から、コンピューターシミュレーションを導入して、血流ストレスを解析できる様になり始めました。研究の結果、血流ストレスが強すぎても弱すぎても血管にとっては具合が良くないということがわかってきました。また、脳動脈瘤は、ストレスが強い所というよりも、ストレスの強い所と弱いところの境目で進行しやすいこともわかりました。まだわかっていないことが多く、発見を待っている医学的知見が数多く眠っています。

図:経過観察中に増大した脳動脈瘤を血流解析したところ、ストレスが高い(赤い)ところというよりもストレスが低い(青い)ところで増大をしていました。複数例の検討をおこなうことで、ストレスが高いところに隣接したストレスの低いところ(境界部分)で増大が起こることがわかりました。

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研究の紹介3 担当 宇野 健志

術者の視線追跡 「あいつは目の付け所が違う」

外科の修練では、本から知識を学び、実地訓練で技能を学んでいきます。とくに、技能の習得に関しては、文字や言葉だけでは伝えきれないミステリアスなところがあります。外科手技の習得において、「手先の器用さ」はそれほど重要ではないことは多くの達人が述べており、患者さんや疾患、そして現場で刻々と変化する状況を適切に判断できる力こそが習得すべきものだと考えています。そのような判断力を習得するのを容易にしたり、自分自身の判断力の段階を客観的に判断する指標として、私達は「視線追跡(アイトラッキング)」に注目しています。メガネをかけるだけなので、手術中の視線記録は容易に行えます。

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経験レベルの異なる4人の術者の視線を解析したところ、
(1)初学者と経験者では見ている画面が異なる
(2)1点を注視する時間が経験が少ないほうが長い
ことがわかりました。初学者では、視覚情報を処理するのに時間がかかるため、1点を注視する時間が長くなるのではないかと思われます。

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研究の紹介4 担当 後藤 芳明

スモールデータ駆動型機械学習による脳内出血の増大予測と患者予後の予測支援システムの開発

【概要】本研究では、希少価値を有する数十から数百例といった少数の学習データ(=スモールデータ)を用いた深層学習技術を開発・検証することで、これまで不確実であった脳内出血の血腫増大と患者予後についての予測支援システムの開発と臨床評価を行う。脳内出血は本邦における死亡原因の第4位を占める脳卒中の一種であり、コモンディジーズであり治療方法などは確立されている一方で、出血の増大予測及び予後予測については高精度とは程遠い現状がある。医療画像技術が進歩した現在でも、血腫増大についていくつかのリスクファクターは報告されているものの、実臨床においては医師の経験に基づいた“臨床的判断”に依存している部分が多い。患者の予後予測についても、脳内出血の局在と血腫量を元に臨床的に判断するも、常時高い正確性を維持することは期待できない。
この臨床的判断は個々人の経験によるものであり、データの蓄積が非効率的かつ主観的である。本研究は、この問題を機械学習技術によって解決すべく、脳内出血の血腫拡大予測及び患者の予後予測システムの開発を目指したものである。機械学習技術の様々な解析法を用いて患者データの網羅的解析から導き出された高精度の出血増大についての予測により、血腫拡大による患者の状態悪化を未然に防ぎ、患者の予後改善や医療費の削減にも大きく貢献するとともに、予め患者の予後予測できることで、手術加療を含めた治療方針の指針となり得るものと考えている。

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研究の紹介5 担当 樋口 芙未

神経膠腫に対する標準治療薬TMZの効果増強・抵抗性の克服をめざした新治療の開発

患者由来神経膠腫細胞株を使用して新治療の開発をめざすTranslational Research
~Bench to Bedside~(研究室から臨床へ)

【概要】神経膠腫はいまだ完治の難しい脳実質内悪性腫瘍です。、脳という多彩な機能をもつ臓器であるがゆえ、また腫瘍の浸潤性の高さから、外科的摘出のみでの治療は不可能であり、放射線・化学療法を使用した集学的治療が必要な疾患です。本研究では、神経膠腫細胞株を使用し、標準治療薬TMZの効果の増強、抵抗性の克服などを目標とした基礎研究を行っています。【学術的背景】再発悪性神経膠腫の20-30%にmismatch repair (MMR)遺伝子の変異が認められ、この変異がTemozolomide(TMZ)に対する抵抗性の要因となっています。したがって、MMR欠損によるTMZに対する抵抗性の克服は、悪性神経膠腫治療において重要な課題です。

神経膠腫細胞株に対して、TMZに加えて、PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)というDNA損傷反応に必須の分子であり、BER(塩基除去修復)、HR(相同組み換え)、NHEJ(非相同末端結合)など多くのDNA修復機構に関与しているたんぱく質の阻害剤(PARP阻害剤)を併用したところ、TMZ抵抗性の細胞株において、TMZへの感受性が回復しました。 再発腫瘍には現在、延命効果のある標準治療はなく、あらたな治療戦略として有効な可能性があります。

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2024年度の研究業績

英文論文発表(査読付きinternational journal)

Impact factor5以上の論文が、なんと 5/15! 当科医師がfirst authorの論文数:9/15

  1. Takami H, Matsutani M, Suzuki T, Takabatake K, Fujimaki T, Okamoto M, Yamaguchi S, Kanamori M, Matsuda K, Sonoda Y, Natsumeda M, Ichinose T, Nakada M, Muroi A, Ishikawa E, Takahashi M, Narita Y, Tanaka S, Saito N, Higuchi F, Shin M, Mineharu Y, Arakawa Y, Kagawa N, Kawabata S, Wanibuchi M, Takayasu T, Yamasaki F, Fujii K, Ishida J, Date I, Miyake K, Fujioka Y, Kuga D, Yamashita S, Takeshima H, Shinojima N, Mukasa A, Asai A, Nishikawa R. Phase II trial of pathology-based tripartite treatment stratification for patients with CNS germ cell tumors: A long-term follow-up study. Neuro Oncol. 2025 Mar 7;27(3):828-840.doi: 10.1093/neuonc/noae229. PMID: 39492661; PMCID: PMC11889720.
  2. Ohara K, Miyawaki S, Teranishi Y, Komura D, Mitsui J, Ikemura M, Hongo H, Sakai Y, Dofuku S, Ishigami D, Okano A, Takami H, Katoh H, Shin M, Nakatomi H, Ishikawa S, Ushiku T, Saito N. Genetic Analysis of Intracranial Schwannomas: Differential NF2 Alteration Frequencies in Nonvestibular Schwannomas Versus Vestibular Schwannomas. Neurosurgery. 2025 May 15. doi:10.1227/neu.0000000000003508. Epub ahead of print. PMID: 40372032.
  3. Sato D, Tanaka S, Shin M, Hana T, Takami H, Takayanagi S, Higuchi F, Saito N. Endoscopic Ventriculocisternostomy with Stent Placement for Trapped Temporal Horn. World Neurosurg. 2024 Dec;192:e447-e453. doi: 10.1016/j.wneu.2024.09.124.Epub 2024 Oct 21. PMID: 39362593.
  4. Goto Y, Higuchi F, Hiwatari M, Sasajima Y, Shin M. Endoscopic Endonasal Transsphenoidal Surgery for Intrasellar Mixed Germ Cell Tumors. World Neurosurg. 2024 Jun;186:165. doi: 10.1016/j.wneu.2024.03.143. Epub 2024 Apr 2. PMID:38575060.
  5. Yoshihira T, Umekawa M, Shinya Y, Hasegawa H, Shin M, Kikuchi Y, Saito Y, Kondo K, Katano A, Shinozaki-Ushiku A, Saito N. Role of stereotactic radiosurgery for recurrent skull base acinic cell carcinoma: illustrative case. J Neurosurg Case Lessons. 2024 Mar 11;7(11):CASE2476. doi: 10.3171/CASE2476. PMID: 38467040; PMCID: PMC10936940.
  6. Shinya Y, Hong S, Wipplinger C, Hasegawa H, Erickson D, Bancos I, Herndon JS, Wipplinger T, Palit SR, Shin M, Link MJ, Pollock BE, Atkinson JLD, Saito N, Van Gompel JJ. Salvage Surgery for Pituitary Adenoma Progression After Stereotactic Radiosurgery: A Rare Occurrence but Crucial Insight. World Neurosurg. 2025 Apr 10;199:123980. doi: 10.1016/j.wneu.2025.123980. Epub ahead of print. PMID:40221026.
  7. Hirano Y, Shojima M, Uno T, Koizumi S, Oyama Y, Indo M, Saito A, Oya S, Saito N, Shin M. Custom shaping of distal access catheter for navigation of microcatheter into inferolateral and meningohypophyseal trunk feeders. J Neurosurg. 2023 Jun 16;140(1):194-200. doi: 10.3171/2023.4.JNS23637. PMID:37347659.
  8. Hasegawa H, Kiyofuji S, Umekawa M, Shinya Y, Okamoto K, Shono N, Kondo K, Shin M, Saito N. Profiles of central nervous system surgical site infections in endoscopic transnasal surgery exposing the intradural space. J Hosp Infect. 2024 Apr;146:166-173. doi: 10.1016/j.jhin.2023.06.033. Epub 2023 Jul 27. PMID:37516279.
  9. Mo J, Hasegawa H, Shin M, Shinya Y, Arisawa K, Umekawa M, Jiang X, Miyawaki S, Nishijima H, Kondo K, Saito N. Endoscopic Endonasal Approach Is Superior to Transcranial Approach for Small to Medium Tuberculum Sellae Meningiomas in Terms of Visual Outcome and Complications: A Retrospective Study in a Single Center. World Neurosurg. 2024 Sep;189:e814-e824. doi: 10.1016/j.wneu.2024.07.010. Epub 2024 Jul 7. PMID: 38981561.
  10. Higuchi F, Uzuka T, Matsuda H, Sumi T, Iwata K, Namatame T, Shin M, Akutsu H, Ueki K. Rise of oligodendroglioma hypermutator phenotype from a subclone harboring TP53 mutation after TMZ treatment. Brain Tumor Pathol. 2024 Apr;41(2):80-84. doi: 10.1007/s10014-024-00477-w. Epub 2024 Jan 31. PMID:38294664.
  11. Umekawa M, Hasegawa H, Shinya Y, Shin M, Saito N. Incidence of and risk factors for chronic subdural hematoma after endoscopic endonasal surgery: quantitative analysis of pneumocephalus. J Neurosurg. 2024 Mar 8;141(2):484-490. doi: 10.3171/2024.1.JNS231953. PMID: 38457806.
  12. Shinya Y, Hong S, Wipplinger C, Hasegawa H, Erickson D, Bancos I, Herndon JS, Wipplinger TM, Palit SR, Shin M, Link MJ, Pollock BE, Atkinson JLD, Saito N, Van Gompel JJ. Safe and efficacious therapeutic outcomes with salvage endonasal transsphenoidal surgery for pituitary adenoma progression following stereotactic radiosurgery. J Neurosurg. 2025 Feb 28;143(1):165-173. doi:10.3171/2024.10.JNS241682. PMID: 40020238.
  13. Hasegawa H, Shinya Y, Umekawa M, Koizumi S, Goto Y, Kiyofuji S, Hanakita S, Shin M, Iwagami M, Saito N. Yellow enhance mode is useful for distinguishing tissues in endoscopic transnasal surgery: case series with preliminary results. Neurosurg Rev. 2025 Apr 2;48(1):346. doi: 10.1007/s10143-025-03485-2. PMID:40172714; PMCID: PMC11965165.
  14. Umekawa M, Hasegawa H, Shin M, Shinya Y, Ono H, Kondo K, Nishijima H, Saito N. Risk analysis for delayed cerebrospinal fluid leak as a late complication of endoscopic transnasal surgery: effects of irradiation and insights into reconstruction methods. Neurosurg Rev. 2025 May 30;48(1):463. doi:10.1007/s10143-025-03591-1. PMID: 40445436.

この他に、和文の論文も多数あります。